人が死ぬのは、心臓突然死以外は、呼吸障害かショック
病気やケガは様々ですが、人が命を落とす最終的な原因は限られています。
下の表のように、致死性不整脈(突然の心停止)の他、呼吸障害と循環障害(ショック)のいずれか原因といえます。
致死性不整脈といえば、心室細動(VF)。心室細動による心臓突然死への対策がBLSであり、ACLSです。
それに大して、PEARSプロバイダーコースがターゲットとしているのは、呼吸障害と、循環障害(ショック)。
呼吸障害とショックには、段階があります。
それを早い段階で察知して、心停止に移行するのを食い止めようというのがPEARS基本コンセプトです。
時代は非心停止対応教育に
日本で、医療従事者のための体系的な救急対応教育が確立したのは、米国からアメリカ心臓協会(AHA)のBLSとACLSが導入された2003年頃からです。
一気にブレイクし、全国の病院がBLS教育導入に躍起になった時代がありました。しかし、それが落ち着いてきた今、誰もが疑問に感じるようになりました。
本当に心停止後からの対応訓練でいいのだろうか? と。
近年、世界の病院内患者安全教育の中で話題となっているのは、Rapid Response Team(RRT)や Medical Emergency Team(MET)です。
これは、心停止対応で呼ばれるCodeチーム(ACLSチーム)に対して、心停止前の「なにかおかしい」という段階で、現場スタッフから要請を受けて、患者の評価アセスメントを行い、安定化を図る看護師や呼吸療法士からなる医療チームです。
心停止に繋がりかねない危険な徴候(=生命危機徴候)を察知し、先回りして対応し、心停止を未然に防ごうという発想で、医療機関での患者安全のために必要なシステムとして世界的に注目されています。
そんな非心停止対応をする専門チームの能力開発や育成に注目されているのが、AHA-PEARSプロバイダーコースです。
なぜ小児?
PEARSは、Pediatric Emergency Assessment, Recognition, and Stabilizationの略です。Pediatricは小児という意味。
非心停止対応やアセスメントは小児分野で発達してきました。
それは小児の救命の連鎖でも現れていますが、子どもの心停止は、成人と違って突然発症するものではないことが多いからです。
アメリカ心臓協会AHAの小児の救命の連鎖の最初の輪は、「心停止の予防」です。イラストではチャイルドシートが描かれているので、事故予防と解釈されがちですが、正しくは「心停止の予防」です。
呼吸器系の未熟さゆえに生じる呼吸原性心停止は、心停止になる前に呼吸窮迫、呼吸不全、呼吸停止といった段階を経て心肺停止児状態になります。
死にいたる前に段階がある。
ましてや予備力が小さな子どもは心停止からのリカバリーはきわめて困難です。となれば、その前段階でなるべく早いうちに異常を察知して、手を打ちたいと考えるのは自然な話です。
このようなわけで、死に至る段階を早めに認識して、介入し、安定化する方法が小児分野で発達してきました。